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登校拒否を考える親・市民の会(鹿児島)
2006年3月発行ニュース(会報第120号)より、一部修正加筆
2006年2月例会(19日)での内沢達の発言


不安を否定しない


内沢 達



息子さんはテレビを見て自分も同じ病気ではないかと思ったんでしょう。
でも、それは病気じゃありません。
僕は昨秋心臓を手術して大変な思いをしたけれど、この1ヶ月間とてもいい経験をしました。


この間に僕の病名が1つ増えました。1月末のことです。
かかりつけのクリニックで、横から見てると医者がカルテに「不安神経症」と書き込んだんですよ。高血圧や狭心症・心筋梗塞という本来の病気にプラス、不安神経症となりました。でも、これも病気じゃありません。


僕は昨年10月末に退院して11月、12月、そして新年1月の10日すぎまではずっと順調でした。その間調子が悪くなるのはホームページの更新がうまく出来ないとか、大学でのこととか、必ず思い当たる原因がありました。そして調子が悪いといっても1日か2日でした。


ところが、1月10日すぎから4週間ほど、ずっと具合が悪かったのです。
すぐ息切れがしてしまうんです。血圧は高くなく落ちついているのに、ちょっと歩くと呼吸が浅く「ハーハー」と息切れしてしまうんです。先月(1月)の親の会でも、参加された方はお気づきと思いますが、僕は途中で何度か「ハーハー」と休みながら話していました。


今日ここまで自宅から徒歩で来たのですが、その歩きも大変でした。
前だと自宅から大学まで片道3キロを往復しても何ともないくらいに元気で順調だったのに、1月中旬から50メートル歩くのも大変になりました。


クリニックで負荷心電図をとってもらったところ、6、7分の間に3回も不整脈がでて気分が悪くなりました。その翌日のことですが夕食後「ハーハー」とものすごく呼吸が速くなり、血圧も上がってきました。妻が電話連絡をとったところ、医者は「心電図をとれるように、すぐにも救急車で入院を」とすすめましたが、間もなく落ちついてきたので、僕は「明日一番に先生のところで診ていただいてから」と答えました。でも、夜中にまたおかしくなり血圧も上が180を超えるほどでしたので、119番で救急車を呼び緊急入院しました。


そんなことを聞くと「たっちゃん、大丈夫なの?!」と心配されるかもしれませんが、まったくどこも悪くないということが段々本人にもわかっていきます。かかりつけのクリニックの医者は深夜なのに病院まで駆けつけてくれて、「心電図その他まったく異常なし!」と妻や僕に笑って帰っていくほどでした。入院といってもたった一泊でしたし、翌週、医者から「ウチザワさんはメンタル面でちょっと・・・」ということで、「不安神経症」というありがたい診断をもらったわけです。(笑)


どうして僕が呼吸も速くなって息切れがしてやがては血圧も上がってきたかというと、すべては身体的な異常からではなく、精神的な不安から起こったことです。


僕は昨秋倒れて、心臓バイパス手術の後、しばらくは知りませんでしたが、相当に危なかったようです。手術直後、主治医は妻に僕が助かるかどうか「五分五分」と言ったそうです。「危ない、ひょっとしたら・・・」という恐怖が僕にはずっとあるんですね。


この間、かかりつけの医者は、血液検査や心エコー、心電図の結果から「どんどん良くなって回復してきています。心配ありません」と太鼓判を押してくれています。僕はそのことを頭では了解しているのですが、気持ちでは納得していないんです。


「良くなっているんだったら、なんでこんなに息切れがするんだ?」
「どうして歩けなくなったんだ?」「入院中だって、もっと歩けた!」
「いまではホームページの更新がうまくできないからといって、いらいらはしない。
なのに、どうして血圧が高いんだ?!」
「職場のこともうまくいっているのにおかしい?」
などと、どんどん疑問が出てきます。


つまるところは「どこか悪いところがあるんじゃないか?」という漠然とした心配や不安です。
でも、こうした不安は僕に限ったものでないことが分かってきました。


今から、80年も昔、昭和の初め、1920年代の本なのですが、慈恵医科大学精神科教授の森田正馬(もりたしょうま)が心臓神経症といって、僕にもぴったりの例を紹介しています。心臓自体が悪いわけでないのに、それを疑って注意を集中すればするほど、心悸亢進(しんきこうしん)が起こってきます。横隔膜がせり上がって呼吸が浅く早くなってきます。


心臓のことを「心の臓器」とはよく言ったもので、身体であっても心のありようと切っても切り離せません。器質的にはなんの問題がなくても、心のありよう次第では、素人から病気を疑われるような身体の状態になってしまいます。


不登校や引きこもりの子どもは、概してヒマで時間がいっぱいあります。
そこで、考えなくていいことまでいろいろと考えてしまいます。


僕もいまはかなりヒマです(笑)。30年近く勤めてきて、初めてもらった休暇のような面もあり、時間があるものですからついよけいなことを考えてしまいます。「どこか悪いところがあるんだ!」と。そうすると身体がおかしくなるんですね。これはおかしいと思うからおかしくなるんです。


みなさん、暗がりで自分の歩く音に驚いたことはありませんか。
僕の大学の研究室は4階にあって、古い建物ですので足元を照らす非常灯もなく、深夜真っ暗な階段や廊下を歩くとき、変な想像を働かせると怖くなります。そして急いで建物の外に出ようとする自分の足音にまた怖くなります。(笑)


森田正馬は、不安や恐怖は誰にでもあることで、その「あるがまま」を受け入れよと言っています。僕の場合だと、「ハーハー」と過呼吸が始まったら、それをおかしなこととは考えないで、なるがままにまかせよということになります。過呼吸のようなことをなくそう、なくそうと考えると逆に「ハーハー」はいつまでも続きます。これを自然なこととして受け入れたとき反対になくなっていくということになります。


2月に入ってから一度、少し強めの発作がありました。また「ハーハー」と呼吸が速くなり、血圧が相当上がりました。「今度具合が悪くなったらこれを飲みなさい」と言われ処方されていた精神安定剤を飲んでもよくなりません。(「えっ、たっちゃんが飲んだのですか?」「ええ、飲みました」。笑)


そこで医者にトモちゃんから電話してもらいました。
医者は「ニトロをなめさせ、放っておいてください」と言ったそうです。
ニトロをなめるとじき落ちつきました。


不思議ですね。ニトロは狭心症の薬、血管拡張剤です。
血管の狭さくはないので関係ないはずなのですが、精神安定剤は効かないのに、ニトロだと効く。すべては心のありようで説明がつきます。


昨秋、心筋梗塞で倒れたとき、その痛み、苦しみをニトロが即効的に軽減してくれた、ニトロがまず第一段階で僕の命を救ってくれたという、この薬への信頼感が他と全然違います。
また医者が僕を放っておいてくれたことが大きいんですね。


森田正馬は、神経症について「これを病気として治療しようとしてもけっして治らないが、ただこれを普通の健康者としてとりあつかえば容易に治るものである」と言っています。誰しも人前で緊張して赤くなったり、声が震えたり、心臓の鼓動が激しくなったりするという経験が多かれ少なかれあります。それにとらわれすぎると病気のようになっていくのですが、それは病気じゃありません。


僕の場合も、狭心症や心筋梗塞は病気ですが、「不安神経症」と診断された、この一ヶ月の状態は病気ではないということになります。この一ヶ月、とてもいい経験をしました。


不安から逃れる道はその不安を否定するのではなく、不安をそのまま認めて、不安とともに生きて行けばいい
んですね。




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最終更新 : 2012.4.8
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